ベビーフェイスと甘い嘘

「パパいつかえってくるの?」

「そうだねぇ……翔頑張ったもんね、早く見てもらいたいね」


そう答えながらも、どうせ今日も遅いんだろう……と思いながら翔に見えないようにそっと溜息を溢した。

広告会社に勤める修吾は、このところ大きな仕事が入ったとかで残業が続いていた。


この半年で、不自然に増えた出張と残業。


本当に残業?と疑う気持ちもあったけれど、私と翔が寝静まった頃に帰って来て、朝も辛そうに起きて仕事に行く修吾の事を詮索したり、問いただす気にはとてもなれなかった。


夫婦の会話も家族の時間も減っていた。それでも来週の土曜日は翔の誕生日ということもあって、久しぶりに出掛けようと修吾のほうから言ってくれたのだ。


「ママできた!みて!」


翔が書きあがった短冊を嬉しそうに目の前に掲げる。
ぼんやりしていて書いているのをチェックしていなかった。よく見ると『できますように』の『で』と『に』が左右逆の鏡文字になっていた。


「ふふっ、翔、逆になってる」


逆さになった字を指差すと、「うわー、しっぱいした!」と頭を抱えて悔しそうにしている。



そんなわが子の失敗も成長も愛しくて、全てがかけがえのない時間だと思う。
< 105 / 620 >

この作品をシェア

pagetop