ベビーフェイスと甘い嘘
「あぁ、そうだ。今月は無理だからな」
また唐突な言葉。今度はすぐに意味を理解した。思わず不満の声が出る。
「だって……」
「20日は月曜日だよな?早く帰れる訳ないだろ」
「……じゃあ日曜日は?」
「月曜日、朝早いから前の日に無理はしたくない」
『無理をしたくない』と言い切るその言葉が胸に突き刺さる。
「……20日は祝日だから、休日出勤じゃない。早く帰って来られないの?」
しつこく食い下がる私の言葉で修吾のイライラが増していくのは分かっている。それなのに言葉を止めることのできない私がいけないのだろうか。
「来週の土曜日にきっちり一日休むために頑張ってんだろ。今月は我慢しろよ」
そしてこの言葉が必要以上に冷たい言葉に聞こえてしまうのは私の心が狭いからだろうか。
……だってあなたは知らない。1ヶ月に一度のチャンスを逃さないために、私は毎日決まった時間に起きて体温を測る。
身体を冷やさないようにしたほうがいいと聞いてからは、飲み物ひとつとっても冷たいものを摂らないようにと気をつかっている。
ひとつひとつは、ほんの些細なことだ。でも些細なことがいくつもあると、やがて些細なことではなくなっていく。
毎日毎日気を付けて、それが一つでも欠けると自分のせいで妊娠できなかったんじゃないかって思い込んでしまう。