ベビーフェイスと甘い嘘

***

店を出ると、ただギュッと掴むように握っていた手は指を絡めるように繋ぎ直されてしまった。

「ちょっと……」

注意しようとして顔を向けると、「少しだけ……ね?」と首を傾けながら甘えるように言われてしまったので、それ以上何も言えなくなってしまった。


めんどくさいなぁと思いながらも……甘える直喜はちょっとだけ可愛らしかったりもする。

「もぅ……しょうがないな。『ウサミ』に近くなったら離してね。直喜だって家の人には見られたくないでしょ?」

そう言ったら「分かりました!」と満面の笑みで返された。

こんな無邪気な笑顔を見たのは初めてで、ちょっと戸惑ってしまう。


人好きのする笑顔は見たことはあるけど、いつも飄々としていて、笑っていてもふと何かを考えこんだり辛そうに顔を歪めるような表情しか今までは見たことが無かった。


いつもこんな感じで笑ってたらいいのに……ふとそう言いかけてすぐに言葉を飲み込んだ。


別に……私がそこまで言う必要はないよね。


「……直喜って、弟っぽいよね。」

何で?と聞き返されたから、

「甘え上手だし、自分のペースに巻き込むのが上手でしょ?要領も良さそう」

そう答えたら、そんなことも無いんだけどな……と苦笑いをされてしまった。
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