ベビーフェイスと甘い嘘
気がつけば、もう少しで『ウサミ』が見える所まで来ていた。
『ウサミ』は大通から少し路地に入ったところにある。このまま真っ直ぐ行ってもいいけど、目の前に見える小路を突っ切って行ったほうが近いはずだ。
近道をしてでも早くこの気まずさから逃れたかった。
そんな気持ちに気がつかれないように、そっと直喜の手を引いて小路へと足を進めて行った。
「『ウサミ』でも笹とか短冊とか飾ったの?アーケードから離れてるけど、『ウサミ』も七夕イベント参加してたわよね」
「奈緒美ちゃん、元気?今日ね、ウチの店の元の副店長の送別会だったの。子どもが産まれるからお店を辞めたんだけど、出産予定が秋くらいで。その人短冊に『無事に出産できますように』って書いてたから……何だか奈緒美ちゃんのこと思い出しちゃって」
無視されてもいい。とりあえず何かを話さないと間が持たない。そう思って言葉を重ねた。
「……奈緒ちゃんは今月いっぱいで仕事を辞めるよ。産休にはだいぶ早いんだけど……双子だから」
ぽつりと呟くように直喜が答えてくれた。
『奈緒ちゃん』と義理の姉のことを呼んだことがちょっと気になったけど、人懐こい直喜のことだから姉とも仲良くなったんだろうと思って気に止めるのをやめた。
それよりも……
「……双子かぁ。いいなぁ」
思わず口にせずにはいられなかった。