ベビーフェイスと甘い嘘
「もう……黙ってよ」
「えっ?」
突然の言葉に、一瞬何を言われたのか分からなかった。
思わず足が止まる。
振り向いて見上げると、直喜は顔を歪めていて……その苦しげな表情には見覚えがあった。
結婚式の時に見た表情だ。
さっきまで甘えるように繋がれていた手に力が入る。
先を歩いていたはずの私は、いつの間にか直喜に引きずられるように歩かされていた。
驚く私に「黙って、って言った」と、直喜は少し呂律の回っていない口調でそう言うと、そのまま路地裏に私を引っ張って行った。
動揺して足がもつれる私を振り返って見ることもなく、どんどん薄暗い路地裏へと入っていく。そして急に止まったかと思うと、ぐっと壁に身体を押し付けられた。
「えっ?……なに……どうした、んっ」
『どうしたの?』と言いかけた私の言葉は重ねられた彼の唇の中に飲み込まれて消えていった。
突然の事に驚く私の事なんて構わずに、繋いだ右手はそのまま壁に押し付けられ、逃げようとする顔はもう一方の手で固定され、覆い被さるように何度も唇を重ねられた。