ベビーフェイスと甘い嘘
押し付けられた手にじりじりとした痛みを感じる。
「んっ……んんっ」
空いた左手で直喜の肩を押しながら顔を動かそうと抵抗したけどびくともせず、さらに強い力で押さえつけられて……やがて深く噛みつくようなキスをされた。
熱い吐息と絡み付くアルコールの香り。強引に唇を割って入り込んでくる舌から逃げることができない。
直喜にこんな風に迫られるのは初めてで、戸惑いを隠せなかった。
結婚式の……あの日だって最初は強引だったけど、その後で私に触れた手はとても優しかった。
私の目にはたぶん戸惑いが見えているはずだ。
けど、それを知りながらさらに私の内側を侵食するように舌を絡めてくる直喜のその表情には静かな怒りの色が見えていた。
さっきまで普通に会話をしていたのに……突然直喜がキスをしてきた理由が全く分からなかった。
『ねーさん、男嘗めすぎ』
困惑した頭の中を駆け巡ったのは、九嶋くんに言われた言葉だった。
その言葉の意味を私は理解しているつもりで、全然分かっていなかったのかもしれない。
この人はただの友達なんかじゃなかった。
そんな事を、今まですっかり忘れてしまっていたのだから。