ベビーフェイスと甘い嘘

このままじゃ……まずい。

崩れそうになる身体を立て直して、バラバラになりそうな理性を繋ぎ止めて、必死に抵抗した。

「ねぇ、なお……き……っ、んっ……だめ……」


長い指がブラウスのボタンをゆっくりと外していく。

キャミソールとブラの肩紐を下ろしながら露になった肩を、鎖骨を、胸元を、唇が撫でるように辿る。


時折チュッと音を立ててキツく吸い付かれると、全身が粟立つように震えが走った。


『やめて』と言いたいのに、言葉も出て来ない。


時折こちらをうかがうように見る瞳は……結婚式のあの時よりもずっと、私の事を求めているように思えた。

でもどうして……そんな目で私を見るの?


彼はひどく酔っている。だって、さっきから直喜が言っていることは全部身に覚えがないことだ。

思わせ振りな事を言った記憶はないし、傷つけた覚えもない。だいたい誘ってるなんて意味が分からない。今だって突然襲ってきたのは直喜のほうなのに。

酔いが覚めたら全て忘れてしまう程度の事で、もしかしたら他の誰かの代わりにされているのかもしれない。

そう思ったら、熱く昂っていた身体がすっと冷えていくような気がした。他の人に抱いている想いを、たまたま隣にいた私にぶつけている……だけだったとしたら?


じゃあ私は……『また』誰かの代わりにされているの?


息苦しいほどの戸惑いと、目の前が暗くなるほどの混乱がせめぎ合う。


心の底から押し上げられてきた感情は、自分ではどうしようもできない程の深い哀しみだった。
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