ベビーフェイスと甘い嘘
「……お願い、何も聞かないで」
芽依が心配しているのを分かっていても、この言葉しか出てこなかった。
自分でも、この状況にまだ気持ちが追い付いて来ていない。
「……シャワー浴びて来なよ、ねっ」
何故か強い口調でそう言うと、芽依は浴室へと私の事を引っ張って行った。
のろのろと服を脱いで浴室に入り、鏡に映った自分の姿に目をやると予想以上にボロボロだった。
泣いたことが分かるような真っ赤な目元は、マスカラもアイラインも剥がれて目の下に黒いふちを作っている。チークも口紅も取れてほとんど素っぴんのようだ。
逃げようとした顔を押さえられて何度もキスをされるうちに、メークは全部剥がれ落ちてしまったんだろう。
熱いシャワーを浴びながら胸元を見る。
そこには痛々しいくらい幾つも紅い跡が付いていた。
『どれだけ自分が無自覚で無防備かって……ちょっとは思い知ってよ』
「……っ」
ーーその瞬間、直喜の声を、瞳を、体温を一気に思い出して心臓がドクンと跳ねた。