ベビーフェイスと甘い嘘

無防備にさらされた肌に付いた幾つもの跡が、また私の心を乱していく。

直喜が怒っていたこと、欲情のまま求められたこと、私の涙を見て哀しげな表情を見せたこと……


彼の感情が何一つ分からなくて混乱した気持ちは治まらなかったけど、今いちばん理解できないのは自分の感情だった。


『嫌じゃなかった』


ーーそう、嫌じゃなかった。


直喜が去ってその場にしゃがみこんで、いちばん最初に出てきたのが嫌じゃなかった、という感情だった。


抵抗したのは、突然のことに驚いたからだ。


涙を流したのは、私を誰かの代わりに求めているんじゃないかと思って悲しくなったからだ。


あのまま直喜がその手を止めなかったら……


私は確実に流されていた。


そんな自分の感情にいちばん混乱している。


***

「ねぇ、芽依。明日何か服借りてもいいかな……」


今パジャマ代わりに着ているTシャツはボートネックだ。胸元は見えなくても鎖骨にも付けられた跡は隠しようが無かったからそれだけ言ったら事情は察してくれるだろう。


明日着ようと思っていた服は、Vネックのカットソーとさっき汚してしまったジーンズだったから、どちらもダメになってしまった。
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