ベビーフェイスと甘い嘘

「ん、任せて。とびきり可愛くしてあげる」

胸元にちらりと視線を向けたけど、芽衣はそれ以上何を聞くこともなく寝室のクローゼットへと向かって行った。

事情は聞かれなかったけど……


レース素材のハイネックブラウスにフレアスカートというこの格好は、33歳には正直キツい。


「茜ちゃん可愛い!」


ニコニコと笑う芽依の表情を見て、『この格好が嫌だったら、何があったか全部話しなさいよ』という無言の圧力を感じたので、甘んじて受け入れることに決めた。


「たまにはこんな可愛い服着たらいいのに」


……まだ言うか。


芽依は私とは違って、素直で正直で可愛い。


言いたいことも言えなくて……いつも作り笑顔で言葉を飲み込んで、嘘ばっかりついている私とは大違いだ。


そんな妹だから、今の私の悩みを相談することもためらわれた。

全て話したらきっと芽依は修吾と灯さんに「白状しなさいよ!」と詰め寄って、その足で『ウサミ』まで向かって行くに違いない。


それはそれで別の悩みが生まれそうなので、しばらく今の悩みは心の奥底に仕舞っておくことにした。
< 140 / 620 >

この作品をシェア

pagetop