ベビーフェイスと甘い嘘
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「ママー。しろくまさん、したでみたい!」
翔にそう声をかけられてはっとする。
昨日の事を思い返すうちにぼんやりしてしまっていたらしい。
翔の手を取ってスロープを一緒に降りて行く。
白熊の水槽は水面にダイブする瞬間を水槽の下側からも見られるようになっている。
灯さん達とはぐれちゃわないかな……そう思いながら辺りを見ると、もう3人は水槽の下側に降りていた。
どうやらはぐれてしまっていたのは私のほうで、翔が迎えに来てくれたのだと気がつく。
……5歳の子どもに気を遣わせるなんて情けない。
ごめんね、と心の中で翔に謝りながら歩を進めた。
右手に温かな温もりを感じながらも、どうしようもなく悲しい気持ちが込み上げてくるのを止めることができなかった。
白熊が餌をめがけてダイブしているその光景に歓声をあげてはしゃぐ悠太くんを微笑みながら眺めている灯さんと……
そんな灯さんを、愛しそうに見つめている修吾の姿を目にしてしまったから。
……ねぇ修吾。あなたの『家族』は私達でしょ?
あなたは……あなたの大切な人は誰なの?
………今日は翔の誕生日なのに。
疑問と不満を心の中に押し込めて、また私は心の中で涙を流した。
何もかも限界だった。
……もう気がつかないふりなんて……できない。