ベビーフェイスと甘い嘘
ちょっと強引に話を終わらせて、じゃあねと手を振って店内へと向かった。
その背中に向かって九嶋くんがまた声をかけてきた。
「そーだ。金曜日、あの後大丈夫だった?その傷、直喜に襲われたんじゃないのー?」
笑いながら何気なく言われた冗談半分の言葉は、ピンポイントに私の心臓を撃ち抜いた。
店に向かっていた足がピタッと止まる。
「……ねーさん?」
「オ……」
「お?」
「……オソワレテイマセン」
動揺しつつも、後ろを向いたまま辛うじて答えた。
「……何で片言?」
そろそろと後ろを振り向くと、九嶋くんはマズイことを言っちゃったなぁという表情をしていた。
これじゃあ『襲われました』と言ったようなものだ。
……何で私はこんな冗談ひとつさらっと流せないのだろう。
うまく立ち回れない自分に、思わずため息が出た。
そんな私の口からやっと出た言葉は
「……何も聞かないでもらえると、助かるんだけど」
という『やっぱり何かあったんじゃん!』と突っ込まれても仕方ないような一言だったけど、それを聞いた九嶋くんは微妙な表情をしつつも、
「……了解」
とこたえてくれた。
彼だって知り合いが同僚を襲った、なんて余計な想像はしたくないだろう。
微妙で気まずい空気を振り払って、私は逃げるように店のほうへと足を進めた。