ベビーフェイスと甘い嘘
「……どちら様ですか」
名乗りもせずにいきなり店長に近づく妹を、慌ててフォローする。
「こら、失礼でしょ。……あ、店長、私の妹です」
「妹さんですか……いつもお姉さんにはお世話になってます。店長の相澤です」
店長の丁寧な挨拶と営業スマイルには目もくれず、芽依は店長のことを睨み付けてこう言った。
「『お世話』って……何を世話してもらってんのよ。……やっぱりあんたでしょ」
知り合いでもなく、ましてや普通に『はじめまして』の挨拶を交わしているはずなのに、言っていることが何だかおかしい。
「……芽依?あんた、何言ってるの?」
思わず疑問が口をついて出る。
レジの前で繰り広げられている異様な光景を防犯モニターで目にしたのか、スタッフルームにいた九嶋くんも店内に顔を出した。
ちらり、と九嶋くんにも目を向けながらも芽依はそのままの勢いで一気に捲し立てた。
「だから!うちの茜ちゃんをズタズタにしてヤッちゃったのは、あんたかって聞いてんのよ!!」
「……はぁ?!」
その言葉にさすがの店長もぽかんと口を開けて固まった。
店長のこんな間の抜けた顔初めて見た……と関係のないことに驚きつつも、私は芽依がとんでもない勘違いをしていたことにやっと気がついた。