ベビーフェイスと甘い嘘

ヤッ……ヤっちゃったって、何よ?!


「どうなの?茜ちゃん!このまま泣き寝入りなんてさせないんだから!!」


今度は私の両肩に掴みかかるように手を置きながら、噛みつかれそうなくらいの勢いで詰め寄られた。


グラグラと揺さぶられながら、芽依が言った泣き寝入りという言葉の意味をよく考える。


土曜日に帰宅した時、手は傷ついていたし服は汚れていた。


芽依は私の姿を見た途端にシャワーを勧めてきたし、鎖骨の跡まで……ばっちり見られてしまっている。


そっか。襲われたと勘違いされても仕方ない。


いや……襲われたってのもある意味合ってるけど。



「……やっぱり……ヤッちゃったの?」


九嶋くんが、あーあ……という表情で聞いてきたので、「ヤッてない!!」と慌てて否定した。


って言うか、やっぱりって何よ!九嶋くんっ!!


しかし、その言葉はヒートアップした芽依の耳には届かなかったらしい。


今にも掴みかかりそうな勢いで店長を睨み付けている芽依の中では、もう店長が犯人で決定しているはずだ。


どうしてこの子はいつもいつも……


とにかく事態を収集しないといけない。まずは芽依を店長から遠ざけて、それから事情を説明しようと思い、口を開こうとした。
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