ベビーフェイスと甘い嘘
「メイさん」
そこに割って入ったのは九嶋くんだった。
「誰よ、あんた?馴れ馴れしく呼ばないで!」
いきなり話しかけられて芽依が九嶋くんにも声を荒らげる。
「それは失礼しました。でも名前しか分からないですからね。柏谷さんの妹さんでしょ?だったら名字も違うだろうし」
「はじめまして。九嶋と言います。ちなみに俺は金曜日は夜勤だったので、送別会には参加していません。で……」
九嶋くんは店長にちらりと視線を向けた。
「店長のほうも途中で退席したみたいなんで、柏谷さんとは一緒に帰っていませんよ。……後はお姉さんのほうから説明があると思いますから、とりあえず場所を移してもらってもいいですか?」
ふと回りを見渡すと、誰も居なかったはずの店内はちょっとだけ混みはじめていた。なんとなく遠巻きにみんなに見られているのに気がついて、途端に恥ずかしさが込み上げてくる。
ここまで流れるように話をすると、九嶋くんは笑顔のまま私のほうを向いた。
「柏谷さん。俺、店に残りますから妹さんと話をしてあげてください」
……助かった。
たぶん店長だってこんな風に気を回せる人には違いない。
けど、今の状況で店長が話をしようとしたら、芽依はもっと騒いで収集がつかないことになっていたかもしれない。
九嶋くんの機転に感謝した。