ベビーフェイスと甘い嘘
旦那さんのお友達の人かな?
だとしたら27、28歳くらい?奈緒美ちゃんと旦那さんは同級生だって言ってたから、どっちの友達でもそれくらいの歳のはずだ。
でも何となく同級生には見えなかった。年齢もよく分からない。奈緒美ちゃんと同じくらいにも見えるし、スーツを着ていなかったら大学生くらいに見えなくもない。
ベンチに腰かけている私の様子をうかがうようにして少し屈みながら立っているその人は、きちんと立ったら180センチ近くあるんじゃないだろうか。
遠くから見たら濃紺に見えたスーツも、間近で見るともう少しだけ明るく華やかな藍色に近い色合いで、細い白のストライプが入っている。スラリとした体系に細身のシルエットのスーツがよく似合っていた。
「具合が悪いんだったら、誰か呼んで来ましょうか?」
その人は、本当に心配そうに私を見つめながら、また話掛けてきた。
顔をのぞきこまれた瞬間に、長めの前髪がサラリと揺れる。
サラサラとした黒髪。その奥からのぞく目は切れ長だけど黒目が大きく、瞳の色も深く澄んでいて、漆黒に近い色をしていた。
……綺麗だな。
思わず見とれてじっと見つめてしまっていた。
「あの……」
その人が困ったように言葉を続けた。
わっ、私何やってるんだろう。
親切で声をかけてくれた人に見とれて、返事もしないなんて。
「す、すみませんっ」
慌てて声を出す。
「ちょっとだけ酔ってしまったんです。座っていればすぐに良くなりますから」
初対面の人にこんなに失礼な態度を取るのも普段の自分からは考えられない事で、やっぱりちょっと飲み過ぎちゃったのかも、と喋りながら反省した。