ベビーフェイスと甘い嘘
「すぐ済みます。スタッフルーム行ってもいいですか?」
店長の了解をもらって芽依をスタッフルームへと連れて行く。
「茜ちゃん……怒ってる?」
私の顔色をうかがうように芽依が聞いてくる。
後悔するくらいならしなきゃいいのに。考え無しなんだから。
ふっ、と溜め息にも似たような苦笑が口から漏れる。
「芽依……今日仕事終わったら家に行くから。だから、一旦帰ってくれない?」
怒ってないよ、とは言ってやらない。
明らかにやりすぎだし……私だけじゃなくて店長にも九嶋くんにも迷惑をかけたんだから。
しゅんと肩を落としながら帰ろうとする背中に、一言だけ声をかけた。
「ちゃんと全部話すから」
『心配をかけてごめんね』と言いたかったけど、その言葉は喉にぴたりと貼りついて出てこなかった。
いつも言葉を飲み込んでしまう私はこんな簡単な言葉も口に出せない。
ふと思う。
私が自分の悩みをすぐに打ち明けられる素直な性格だったら、芽依はこんなに向こう見ずな性格にはならなかったのかもしれない。
嫌なことを嫌だと言える人だったら。
言いたいことをきちんと口に出せる人だったら。
人目ばかり気にして感情を表に出ることを怖がって不満を奥底に押し込めている……こんな自分は大嫌いだ。
大嫌いだと思っているのに、素直に『ごめん』と口に出すことはやっぱりできなくて……飲み込んだ言葉の代わりに溜め息が零れ落ちた。