ベビーフェイスと甘い嘘
「ご迷惑を……おかけしました」
芽依を見送り、店に戻って店長に謝る。九嶋くんの姿を探したけど、彼はもう店には居なかった。
最近昼も忙しいって言ってたから本当は何か急ぎの用事があったのかもしれない。
なのに店に残ってくれたし、フォローもしてくれた。後で九嶋くんにもちゃんと謝らなくちゃいけない。
「本当に迷惑でした」
無表情のまま店長が答えた。
心からの謝罪の気持ちを示して謝ったけど、そんな返しをされるとそれはそれで腑に落ちないものがある。
「俺ね、お客様から家まで付けられたり、押し掛けられたりしたことはありましたけど、店で詰め寄られたのは初めてです」
……へー、それは凄いですね。
自慢なの?そう思ってちらりと様子を伺ったけど、目は全く笑っていなかった。丁寧な口調で話すのが怖すぎる。
そのまま店長はキュッと口角だけ上げて、形だけの笑顔を作るとこう言った。
「柏谷さん。俺ね、午前中にどうしても終わらせたい発注があるんですよ」
「……はぁ」
「だから、レジは全部任せます。揚げ物しながら発注しますから。混んだ時『だけ』呼んでください」
あぁ……奥に引っ込んで、出てきませんってことですね。
「分かりました」
事情は聞かないから働けよ、って言うんだったらそうするしかないじゃない。