ベビーフェイスと甘い嘘
とにかくあと数時間、目の前にいるこの人の機嫌をこれ以上損ねないように働かなくてはいけない。
「あ、柏谷さん」
「……何でしょう」
まだ何かあるの?
「明後日からプライベートブランドのフェアが始まります。入り口正面の棚の商品の入れ換えをお願いします。はい、これレイアウト表」
『これ、社員の仕事じゃないんですか?!』
喉まで出かかった言葉をゴクリと飲み込む。
「……分かりました」
私に拒否権は無い。
「雑貨の棚も夏物商品の入れ換え始まってますのでお願いしますね」
……くっ。
「……何か?」
「イイエ、ナニモ」
感情を振り払ってロボットのように返事をすると、店長は満足したようにニヤリと笑った。
『ばらされたくなかったら働けよ』と言われているような嫌みったらしい笑顔だった。
……やっぱり、私はこの人のことが嫌いだ。
自分に似てる、似てないは別にして。
心からそう思った。