ベビーフェイスと甘い嘘
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「柏谷さん、あがっていいですよ」
そう店長に声を掛けられる頃には、私は頼まれていた棚換えと雑貨の補充を終わらせていた。
レイアウト表を見ながらそれに合わせて棚を組み換え、商品を収めるその作業は司書をしていた頃にしていた書架の整理と似ていた。
元司書なめんなよ。そう自慢げに言ってやりたいほどだ。
「今日は本当にお疲れ様でした」
店長はざっと棚のチェックを済ますと、誉めるでもなく、かと言ってダメ出しをするわけでもなく、あっさりとお疲れ様と言った。
結構な量の仕事をこなしたはずなのに……
余計な事は言ってはいけないと思いながらも、つい口から不満が出てしまう。
「……こういう時に、何か温かい声を掛けられる人の所に集まるもんだと思うんですけど」
「何がです?」
訝しげに店長が聞き返す。
「アレですよ」
入り口近くの壁に飾られている、店長の『人望』と書いてある短冊を指差して、そう答えてやった。
その時、今までは気がつかなかったけど、店長のオレンジ色の短冊の近くに……見覚えのある藍色の短冊が飾ってあるのを見つけてしまった。
名前は書いていない。
でも何となく分かってしまった。あれは直喜が書いたものだって。
『大切な人に、しあわせな人生が待っていますように』
少し癖のある、だけど素直で読みやすい字で書かれていた。