ベビーフェイスと甘い嘘
見ず知らずの人にこれ以上迷惑はかけられない。
にっこりと笑って、大丈夫だとアピールをする。
「そうですか」
その人は瞳と同じように綺麗に整った唇をキュッと上げて人懐こい笑顔を見せると、そのまま外へと戻って行った。
……はぁ、焦った。
よっぽど具合悪そうに見えたのかしら。
今まで酔って具合が悪くなることなんてなかったのに……。翔が生まれてからは飲み会にもあんまり縁がなかったから、お酒に弱くなってしまったのかもしれない。
体調が良くなかったり精神的に不安定だと、お酒も回りやすくなるっていうしね。
別に体調は悪くなかったけど、後者には心当たりがあった。ちょっとだけむしゃくしゃして、飲みたい気分だった。
人のしあわせをお祝いする場所で、憂さ晴らしに近い気持ちでお酒を飲んだのがいけなかったのかもね……
はぁ……とまたため息が出る。
ふわつく身体は落ち着いてきたけど、しあわせが溢れる空間には戻りたくなかった。
うつむいたまま、しばらくぼんやりしていると、コツコツとこちらに向かって近づいてくる靴音が聞こえた。