ベビーフェイスと甘い嘘
「しないよ」
芽依はあっさりとそう言った。
「茜ちゃんが真面目で軽はずみなことをできない性格なのは私がいちばんよく知ってるから。だから行動はともかく、いい加減な気持ちじゃなかったってことだけは、分かる」
蔑む訳でもなく、さっきまでのからかう様な口調でもない。芽依の表情は真剣だった。
だけど……私は芽依が思っているほど真面目な人間じゃない。
「私、真面目じゃない。ほんとは修吾のこと責める資格もないと思う」
だって私は浮気をした。それは事実だから。
「資格って……あのね、こういうのは理屈じゃないのよ、茜ちゃん。自分の事だけじゃないし、相手がいないと誘われる事も、流されることも無いんだから」
「私が知ってる茜ちゃんは、人付き合いが苦手で心の中に高い壁を作っちゃうような人だよ。だけどその壁を壊して近付いて来た人がいた。真面目すぎる茜ちゃんはその状況に戸惑ってる。……今はそんな感じだと思うんだけどなー」
私も、今までは遊びで付き合うだとか、そんな事をする人は最低だと思っていた。それなのにどうして直喜の誘いには応じてしまったんだろう。
壁を壊されたというより、壁にいつの間にか自動ドアができちゃってたっていう感じで……
彼はそれくらい突然だけど、自然に私の心の中に入り込んで来た。