ベビーフェイスと甘い嘘

「ねぇ、茜ちゃんはウサミナオキのことはどう思ってるの?」

驚いたことに、芽依は直喜のことを知っていた。
『ウサミ』の常連だったのだ。

「茜ちゃん、お惣菜とか買わないもんねぇ……うちは拓実(たくみ)が出張に行ってご飯作るの面倒くさい時とか『ウサミ』で済ませたりするよ」

『ウサミ』はそんな人々が集まって夕飯時は特に賑わっているらしい。だとしたらあの辺の人はみんな直喜のことを知っているはずで……

今更だけど、金曜の夜にうかつに手を繋いで帰ってしまったことを後悔した。

そんな事を考えていたら、また「で、どうなの?」と聞かれてしまった。


直喜のことが分からないと……そう思った時に、じゃあ私は直喜のことをどう思っているんだろうかと考えた。


……どう考えても答えは出ない。


「じゃあ、相性が良かったの?」

何が?と聞き返した私に芽依が呆れたように言った。

「何が?って……身体に決まってるじゃない。一回限りで終わらなかったんでしょ?好きかどうかも分かんないのに何回か会って、流されちゃうなんて、よっぽど相性が良かったからなんじゃないの?」

「……分かんない」

「はぁ?」

「だって……してないもの」

「まだ?一回も?……だって、ホテルに行ったんだよね?」

「うん」

「それで、何もなかったの?!」

「……………………あった」

分かんない、なんて言わなきゃよかった。何もないかと聞かれたら……何もしなかったってワケじゃない。

一通りのコトはしましたけど……って自ら白状しているようなものだ。
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