ベビーフェイスと甘い嘘

それに……今までの修吾とのセックスには全く愛情というものが存在していなかったということに、たった一回の愛のない浮気で気がついてしまった。


それだけは、口が裂けても絶対に誰にも言えない。


突然黙ってしまった私に「茜ちゃん、顔真っ赤だよ」と芽依が笑いながら言った。


「何でしなかったの?彼、ヘタレだったの?」

「……それは……なかった……と思う。」

「だったら、その気になった男が途中で止めるなんてかなり難しいよ。むしろおかしい」


「どうしてもダメだったの。私が」


何年も何年も我慢してきた涙を、どうして私はあの瞬間に流してしまったんだろう。


泣き出した時、直喜は驚きながら、今さら嫌だって泣いちゃうの?なんて冗談っぽく言っていたけど……私が本気で泣いているって分かった途端にピタリとその手を止めた。


しゃくりあげるほど泣いている私を見て、困った表情をしながらもそっと抱き寄せてくれた。

その腕の中で、何故か私は心の底から安堵した。


泣きながらすがった腕は温かくて、何度も頭を撫でてくれたその手はとても優しかった。


そんな優しさは……私は今まで知らなかった。


修吾の前だと素直に不満や不安を口に出せなくて、心の中ではずっと泣いていた。

心が涙でいっぱいになって、いつも溺れたみたいに苦しかった。


なのに、どうして直喜の前では涙を流すことができたのかな……


直喜が私に何を求めてるのかなんて、知らない。


愛されたい訳じゃない。


……私はただ、この涙の意味を知りたい。

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