ベビーフェイスと甘い嘘
実は九嶋くんは直喜と知り合いで、直喜との関係も知っているの、と教えると芽依はすっかりご機嫌斜めになってしまったのだ。
頬を膨らましながら芽依が言った。
「で、茜ちゃんはどっちにするの?」
「どっちって、何が?」
唐突に聞かれて頭の中に『?』が浮かぶ。
いつも思うけど、芽依の話には主語が足りないと思う。
「だーかーらー、『ウサミ』か、コンビニの『可愛い子』か。どっちがいいのかってことよ」
……ワケ分かんない。
「茜ちゃんはバカで不誠実な男に捕まって何年も無駄にしたんだから、今度は誠実な年下に癒してもらいなさい」
『バカで不誠実な男』= 修吾ってこと?
じゃあ誠実なのは……誰?
それに修吾の事も私の中で勝手に結論が出てるだけで、話も何もしていないんだけど。
とりあえずは、夫婦の問題から結論を出さないといけない。
後の事なんて考えられない。
年下に癒してもらうだの……ましてや、どっちを選ぶかなんてもっと考えられない。
「選ぶだなんて、どんだけ上からよ。私なんてもう若くもないし、モテないよ」
二人とも私の事なんて何とも思ってないんだから。
子持ちのアラサー……あっ、もうすぐ34歳だからアラサーも怪しくなってきたけど……今さら恋愛なんてできないよ。
芽依の言葉を自虐で流して、私は芽依の家を後にした。
思いの外話し込んでしまった。すぐに翔を迎えに行かなくちゃ、お迎えの時間に間に合わない。
ほら、ね。
子持ちのアラサーの現実なんて、こんなもんだ。