ベビーフェイスと甘い嘘
2.
ハッピーエンドの向こう側
「ねぇ、これでいい?」
「もうちょい下まで滑らせて。……そう。そのまま指をゆっくり動かして」
「あっ、離さないで。……お願い、もう一回」
『もう一回』。そう言った途端に目の前の『可愛いオトコ』はため息をついた。
「だからさぁ、ゆっくりと指でぼかしてくんだってば。乗せたり、重ねたり、伸ばすんじゃなくて……ぼかす!」
「……ぼかすって何?よく分かんない。丸ーく、くるくるって動かせばいいんじゃないの?」
「……そうじゃないから言ってるんだよ。丸く伸ばしたその顔、鏡でよく見てみれば?ねーさん。……くっ……ははっ。……インコみたい」
九嶋くんはそれだけ話すと我慢できない、と言った様子で笑い転げた。
……失礼ね。
そう思って鏡をよく見たら、目の下が不自然なくらいオレンジ色に染まっていて、悔しいけど九嶋くんの言うとおりインコのようだった。
先週のサンキューマート突撃事件で、芽依の暴走を仲裁してくれた九嶋くんだったけど、「貸し一つ、だからね」と後でLINEが入っていた。
だから直喜とのこともきっちり聞かせてもらうよ。そんな事まで言われてまた九嶋くんのアパートにやって来たのだ。
そこで私を待っていたのは質問責め……ではなく、なぜか九嶋先生によるチークの講習会だった。