ベビーフェイスと甘い嘘
2.

ハッピーエンドの向こう側


「ねぇ、これでいい?」


「もうちょい下まで滑らせて。……そう。そのまま指をゆっくり動かして」


「あっ、離さないで。……お願い、もう一回」



『もう一回』。そう言った途端に目の前の『可愛いオトコ』はため息をついた。


「だからさぁ、ゆっくりと指でぼかしてくんだってば。乗せたり、重ねたり、伸ばすんじゃなくて……ぼかす!」


「……ぼかすって何?よく分かんない。丸ーく、くるくるって動かせばいいんじゃないの?」


「……そうじゃないから言ってるんだよ。丸く伸ばしたその顔、鏡でよく見てみれば?ねーさん。……くっ……ははっ。……インコみたい」


九嶋くんはそれだけ話すと我慢できない、と言った様子で笑い転げた。

……失礼ね。


そう思って鏡をよく見たら、目の下が不自然なくらいオレンジ色に染まっていて、悔しいけど九嶋くんの言うとおりインコのようだった。


先週のサンキューマート突撃事件で、芽依の暴走を仲裁してくれた九嶋くんだったけど、「貸し一つ、だからね」と後でLINEが入っていた。


だから直喜とのこともきっちり聞かせてもらうよ。そんな事まで言われてまた九嶋くんのアパートにやって来たのだ。


そこで私を待っていたのは質問責め……ではなく、なぜか九嶋先生によるチークの講習会だった。
< 167 / 620 >

この作品をシェア

pagetop