ベビーフェイスと甘い嘘
「ねぇ、九嶋くん。私、どうしてチークの練習してるのかな?」
普通に質問したつもりだったけど、九嶋くんの笑いは止まる様子がなかった。
「ちょっと待ってよ……ふっ……その顔で真面目に話しかけないでくれる?……ははは。ダメだ。話せないって」
それはこっちのセリフなんですけど!
そう言おうとした瞬間に、私の頬は九嶋くんの掌に包まれてしまっていた。
「なっ……えっ、ちょ、ちょっと!」
私の頬を、九嶋くんの指がするすると撫でていく。
間近で見ると掌は意外と大きく、指は骨太でがっしりとしている。可愛らしい見た目とは違って男を感じさせる手だった。
「はい、これで大丈夫。今触ったみたいにやってみて。これが『ぼかす』ってことだから。……って、あれ?」
鏡を見なくても分かる。きっと私の顔は真っ赤になっているはずだ。
「どこにチーク入れたか、分かんなくなっちゃったね」
ニヤリと笑いながらそんな事を言うもんだから、ますます顔が熱を持ってしまった。
……だってあんなに……キスをされてもおかしくないくらい顔が近かった。
こんな距離まで近づかれるなんて、完全に予想外だったんだもの。