ベビーフェイスと甘い嘘

裕子姉さんでも来てくれたのかな……?

そんな事を思いながらも顔を向けるのは億劫で、そのまま声を掛けられるのを待っていた。


真横に誰か立った気配がして足元に目をやると、茶色の革靴と藍色のスーツが目に入った。


「隣に座っていいですか?」


心をふわりと包み込むような、温かくて柔らかな声。

声をかけてきたのはさっきの男の人だった。
手にはグラスを持っていて、どうぞと手渡された。


「お酒じゃないですよ」


そう言いながらまたにこり、と微笑む。


「……ありがとうございます」


戸惑いながらも受け取ってグラスに口をつける。
ウーロン茶だと思って飲んだのに、爽やかな香りがして驚いた。


「美味しいでしょ?大丈夫って言ってたのになかなか立ち上がらないから、何か飲んだほうがいいんじゃないかと思って。フレーバーティーも用意できるって聞いたから、作ってもらっちゃいました」


確かに普通のお茶やノンアルコールのカクテルを飲むよりはこっちのほうが口当たりが良かった。


フリードリンクのスペースの中にカクテルを用意してくれる人がいたけど、わざわざ作ってもらったんだ……


ただ戻るのが億劫なだけだったのに、余計な心配をかけてしまったようで申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
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