ベビーフェイスと甘い嘘
「九嶋くん。これも貸し一つ?」
何だか一つどころじゃなくて、九嶋くんにはたくさん貸しを作っているような気がする。
「そうだね。じゃあ貸しってことで」
「でも、顔貸してって言われたけどメークしてもらったこともないし……教えてもらうばっかりで……貸しだけどんどん増えてない?」
その上悩みまでしっかりと聞いてもらっている。
「九嶋くんにメリットないよね?」
「……まぁ、メリットっていうか、俺は充分楽しんでるからいいんだけど」
そう言ってちょっとだけ考えるような表情をした後で、九嶋くんは意外な一言を口にした。
「ねぇ、ねーさん。夏祭り一緒に行こうよ」
「夏祭り?……って羽黒の花火大会のこと?」
毎年8月の頭に、市内を流れる羽黒川の河川敷で花火大会が行われる。
その日には駅前の神社がある通りでも屋台が並んだりして、地元の人達で賑わう昔ながらの夏祭りだ。
ただ、私は羽浦市内が地元ではないので、なじみのない夏祭りに足を向けたことは無かった。