ベビーフェイスと甘い嘘

「そう、花火大会。ひょっとして家族で行くつもりだった?」

「……行かない。翔とは行くかもしれないけど」

離婚するって言ってるのに、仲良く出掛ける訳がないじゃない。

「鞠枝ちゃんの送別会の次の日って、家族で出掛けたんじゃなかったっけ?」


「そうよ。でもね、あの日はもう一家族一緒だったの。旦那のいとことその子ども。それで、旦那はずーーーーっとその二人と一緒にいたの」


「いとこって、女?」


「うん」


「その人の旦那さんは?」


「……離婚してる」


話してるうちに、あの時白熊の水槽の前で見た慈しむような修吾の瞳を思い出して、思わず眉間に皺が寄ってしまっていた。

それに気がついた九嶋くんが苦笑する。


「……もしかして、そのもう一家族が、ねーさんが離婚したいって思ってる原因だったりする?」


「証拠はないけどね。……もういいでしょ。私の中では離婚は確定。それだけ。……九嶋くん、さっきここに来ちゃダメとか、直喜に会っちゃダメとか言ってたけど、夏祭り一緒に行こうって言うの矛盾してない?」


「そうなんだけどさ。ねーさんこれから大変になるんだから、ちょっとだけ気分転換したらいいんじゃないかと思って。二人じゃないなら大丈夫でしょ?ねーさんには子どももいるし。あと……あのおっかない妹さんとか誘えばいいじゃん」


確かに芽依を誘ったら亜依も来るだろうし、翔も喜ぶはずだ。それこそ、家族で出掛ける予定が無かったら声をかけてもいいかもしれない。
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