ベビーフェイスと甘い嘘

「おっかないなんて本人には絶対に言わないでね。九嶋くんまで攻撃されるわよ」

ただでさえ、芽依は九嶋くんとも何かあるって勘違いしているんだから……

「誘ってくれるのは嬉しいけど、私の気分転換の為に誘ってくれたんだったら、これも貸しじゃないの?」


「だから、それは俺が楽しんでるだけだから貸しじゃないってば。神社のとこで、『still』も店出すんだよ。だから一緒に行こうよ」


「『still』が屋台で何を売るの?」

「サーバー持って行ってビールとか出したり、ちょっとしたカクテルとか作ったりするんだよ。ヤスさんがそういうの好きで、よく出張していろいろやってるから。……勇喜さんの結婚式にカクテルスペースあったでしょ?あれ、ヤスさんが作ってたんだよ」


酔った身体に優しく染みた、爽やかなフレーバーティーの味わいを思い出した。……あれってヤスさんが作ってたんだ。


直喜と『still』に行ったあの日は、初対面で泣いてしまってちゃんと話もできなかったし……


「うん、分かった。夏祭り行こう。芽依にも声かけてみるね」


私の返事に、なぜか安堵したような表情で九嶋くんは「ありがとう」と言った。


貸しばっかり作ってるのに、お礼を言われるなんてなんだか不思議な感じだ。


少しだけその表情に違和感を感じたけれど、久しぶりの『祭り』という愉しげな響きに違和感はすぐに消え去った。


もうすぐ8月。うだるように暑い夏がやって来る。
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