ベビーフェイスと甘い嘘
「旦那さんのお友達ですか?」
黙って飲んでいるのも悪いような気がして、質問をしてみる。
「まぁ……そんな感じですかね」
私の質問に曖昧に答えると、目の前のその人は少しだけ顔を歪めた。
およそ友人を祝う気持ちの無さそうなその表情が、妙に心に引っ掛かった。
『あなたは、どうしてそんなに苦しそうな顔をしているの?』
……とは聞けなかったし、それ以上言葉を繋げることもできずに、しばらく黙ってグラスを傾けた。
やがて私は空になったグラスを持ち上げて「親切にしてくれてありがとう」とお礼を言った。
沈んでいた心はだいぶ落ち着き、酔いもすっかり覚めていた。
……さぁ、『しあわせ』の場所に戻らないとね。
そう思って立ち上がった瞬間、男にグラスを持っている方の腕をぐいっと引かれた。
「きゃっ」
不意を突かれてバランスを崩した私は、声をあげながらまたベンチにドスッと腰かけてしまった。
「ちょっ、何するんですか!」
グラスまで落としそうになって、思わず声を荒らげてしまう。
そんな慌てる私の様子を、目を細めてクスクスと笑いながら眺めていたその人は、次に驚くような言葉を言った。
「ねぇ……今からどこかに行きませんか?二人きりで」