ベビーフェイスと甘い嘘

「はぁ、思ったよりも凄い人だわー」

そう言いながら、ふぅ、と芽依が息を吐いた。身重の身体にこの人混みは結構厳しいかもしれない。

「芽依さん、ごめんね。こんなに混んでると思わなかったよ。俺花火来るの久しぶりで……昔はこんなに人がいなかったんだけど」


「何か水上花火と仕掛け花火をやってるでしょ?あれがテレビで取り上げられて有名になっちゃったみたいだよ。地元だけじゃなくて、県外からも見に来る人がいるみたいだしねー」


九嶋くんが申し訳なさそうに謝っていたけど、芽依は気にしないでねーと笑っている。

混み具合もリサーチ済みらしく、早めに帰れるようにと拓実さんに連絡を入れていた。


『ーー花火は……ーー……までーー……打ち上がり……』


花火の打ち上がりを告げるアナウンスが、風に乗って途切れ途切れに聞こえて来た。


次の瞬間、ドーンと大きな音が響き、漆黒の夜空が次々と鮮やかな光の彩に染まっていった。


「綺麗……」


ちゃんと花火を見るのなんて、何年ぶりだろう。
転職を決めて地元を離れる年に見た、地元の祭の花火が最後だったかもしれない。


ドン、ドンという衝撃と共に次々と打ち上げられる花火にわぁー、と歓声を上げる子ども達。


その横顔は、花火のようにパッ、パッ、と明るく輝いているように見えた。
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