ベビーフェイスと甘い嘘
思いもしなかった言葉に一瞬動揺したけど、すぐに冷静な気持ちに戻った。
目の前のこの人は、ただの親切な人じゃなかったってワケだ。
まぁ目的でもないと、こんな女に不自由してなさそうな人が、特に美人でもないアラサー女に声をかけるワケないか。
喜んでホイホイ付いていくとでも思ってるのかしら。
バカにしないでよ。
そう思いながら、目の前の綺麗な顔に冷たい視線を向ける。
「もっと若くて可愛い子に声をかけたら?」
なるべく声に感情を込めずに言った。
怒ってると思われるのも癪だった。
だけど、私のそんな蔑むような視線を気にすることもなく、その人はにっこりと笑いながらまた私に向かって話しかけてきた。
「あのさ、あんなしあわせに浸りきってる人達に声をかけたってつまんないでしょ。俺はね、あなたのことが気になったんだよ」
そして少しだけ声を潜めてこう言葉を続けた。
「だってさ……あなた、あのしあわせな空気の中にいられなくてココに逃げて来たんでしょ。……違う?俺も同じだから分かるんだよね」
だからさ、一緒に逃げちゃおうよ。
そう言って形の良い目を少しだけ細めてニヤリと笑った。
それは今までの人懐こい微笑みと違って色気を感じさせるような、そんな艶のある笑い方だった。