ベビーフェイスと甘い嘘

「今日はちゃんと見てなかっただけだから!」

「……ねーさん、そんな必死に言っても説得力ないよ。レインボータウンごときで迷子になるなんて信じらんない」

「だって……広いじゃない。モールだって2箇所に別れてるし……」


九嶋くんに笑われるのは、何か悔しい。

とにかく方向音痴じゃないと分かってもらおうとしたけど、翔の言葉でとどめを刺されてしまった。


「いっつもママがまいごになって、パパにおこられちゃうから、おこられないようにかけるがおしえてあげるんだよ」


5歳児に場所を教えてもらっていることがバレた恥ずかしさよりも、迷った時に修吾からキツい一言を言われていたことを翔が知っていたのがショックだった。

子どもって親が思っているより、ちょっとした事でも敏感に気がついているんだ……


無言になった私に、九嶋くんも笑い話にできない雰囲気を感じたのか、そのまま何となく黙ってしまった。


その時、後ろから「……茜ちゃん?」と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


えっ?と思って振り向くと、そこには裕子姉さんと千鶴ちゃんが立っていた。


「ほらー、やっぱり茜ちゃんだったでしょ!」

「ほんとだ!わぁー、偶然!」


二人に会うのは奈緒美ちゃんの結婚式以来だった。思いがけない再会に思わず嬉しくなってしまう。
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