ベビーフェイスと甘い嘘

「昨日何処に居たのかは、後で聞く。シャワーでも浴びて目を覚まして来いよ」


その場で問いただされなかったことにほっとしながら、風呂場へと向かう。


昨日よりも光沢を失ったように見える、皺が寄ったベージュゴールドのドレスを脱ぎ捨てて、熱いシャワーを浴びた。


シャワーを浴びながら鏡に目をやる。
首筋、肩、胸元……あぁ、背中もチェックしとかないと。


一通り身体を見回して、何も『痕跡』が残っていなかったことに安堵した。


着替えてリビングに戻る。

「おかえりなさい!ママ!」

ダダッと走り寄って来る小さな存在に、胸がちょっとだけ痛んだ。


「ただいま……翔(かける)」


そう。私は朝帰りなんてしてはいけなかったのだ。


「ねぇ、ママきのうはどこにいってたのー?」


無邪気に翔が私に聞いてくる。


「ママはね、ちょっと『羽目』を外して来たんだよ。なぁ?」


さっきから嫌味ばかりを口にするこの人は私の夫だ。


「『ハメ』って、なぁにー?」

意味を聞かれて苦笑いする。

翔くん。あなたのママは……


羽目どころか……たがも外れちゃったの。



柏谷 茜(かしわや あかね)33歳。



旦那と子どもがいる身で、男と一晩過ごして朝帰りをしてしまいました。

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