ベビーフェイスと甘い嘘
『ばらされたく』なかったら……
柏谷 茜。
33歳。
夫と息子の3人家族。結婚して5年。
サンキューマート羽浦駅前店勤務。
勤続3年目。
私の『今』を書こうとするとほんの10行足らずで終わってしまう。
なんて平凡な人生なんだろう。
先々週までは、それでもしあわせとは言えないまでも、現状を変える気はさらさら無かった。
だけど、気がつかないうちに心の中は渇いていたらしい。
ちょっとした刺激が欲しかった。
退屈な人生に幾分かのスパイスを。
……そうしたら不満も不安も忘れられるような気がした。
***
「柏谷姉さん。そろそろ俺あがりたいんですけど」
コンビニのスタッフルームで私に遠慮がちに声をかけてきたこの人は、夜勤専門のスタッフの九嶋(くしま)くんだ。
朝日勤で出勤の準備をしながら……何故かぼんやりしてしまっていたらしい。
「相沢と『そのうち来るでしょ?』なんて話してたんですけど……ねーさん、いつまで経っても来ないから」
「わっ!ごめん九嶋くん!すぐに入るからっ!」
慌てた私を心配そうに見つめながら、九嶋くんはこう言った。
「ねーさん、最近おかしいよ?仕事中もなんだか上の空だし。相沢も店長も心配してます」