ベビーフェイスと甘い嘘

『バレてないんだったら、余計な事言っちゃだめ』


とっさに女だと答えてしまったのは、九嶋くんに言われたことをふと思い出したからだ。

何となく今の修吾には九嶋くんの事を話してはいけないような気がして、ちょっとだけ嘘をついた。


「10年近くこっちに住んでるけど、花火を見に行ったのは初めてだったから楽しかったよ」


嫌みを言ったつもりは無かったけど、私の言葉に修吾の眉間に皺が寄ったのがはっきりと分かった。


これ以上会話を重ねてもお互いに苛立つだけだ。私は「おやすみなさい」とだけ言って、また逃げるようにリビングを出た。



***


今日あった色々な出来事を思い返して、ベッドに入ってからもなかなか寝付くことができなかった。


九嶋くんのこと、奈緒美ちゃんのこと、5年前の自分のこと、そして直喜のことと、自分の気持ちに気がついてしまったこと……


縺れていた感情をほどいてみたら、後に残ったのは私が直喜に惹かれていた、という単純な事実だけだった。


『茜さんの大切にしてるものを壊すつもりはないんだ』


彼はそう言っていた。


私の大切にしているもの……。


『家族』を壊すつもりはない。……そう言いたかったの?
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