ベビーフェイスと甘い嘘

翔と一緒にいたからだと思うけど、今日の直喜は抱き締めることも、キスをすることも無かった。


ただ痛む足に、涙を流した頬に、労るようにそっと触れてくれただけだ。


「壊すつもりはないんだ」と直喜が言ったその瞬間に、もし私が「壊してもいいのに」と口にしていたら……


直喜は何て言ってくれたのかな……


そんなとりとめのない事を考えていたら、ますます眠れなくなってしまった。


「離婚、いつ切り出そう……」


心の中でぽつり、と呟いたはずの言葉が口から零れ落ちてしまっていた。


とりあえず、目の前にある問題を一つ一つ解決していかないといけない。


家族に失望したからと言って、それを直喜に壊してもらおうとするなんて、そんなのはばかげている。


ーー自分の気持ちに向き合うのは、全てが終わってからでいい。
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