ベビーフェイスと甘い嘘
甘すぎて怖い
***
「茜さん、久しぶりですね!おはようございます!」
最近夕勤シフトの多かった唯ちゃんと久しぶりに朝シフトで一緒になった。
8月13日。
いつもならこの日は柏谷の家へと顔を出しているけど、今年はどうしても仕事が休めないと言って修吾と翔二人で行ってもらった。
どうしても休めない……というのは嘘だったけど、私がシフトに入ったことで店長と初花ちゃんの手が空いたらしい。
「あー、これで荒れ放題だった資材置き場と備品の整理ができます!」と初花ちゃんには感謝されたので、嘘をついてしまった後ろめたさは薄れた気がした。
「おつかれさまでした」
資材置き場に籠りっぱなしの店長と初花ちゃん、カウンターにいる唯ちゃんに声をかけて、夜勤明けの九嶋くんが帰って行くのが見えた。
私がフライヤーに立ったタイミングを狙ったように帰って行くその後ろ姿に、思わずため息が出た。
花火大会の日以来、明らかに九嶋くんに避けられている。
理由も分かっている。わざとではないけど、私は九嶋くんの知られたくなかったことを少しだけ知ってしまったのだ。
それを分かっていながら、私はどうすることもできないでいた。
うわべだけの人間関係しか築いてこなかった私は、こういう時に人の心の中に近づく術が分からない。