ベビーフェイスと甘い嘘

「ねぇ、翔。どうしたの?何で悠太くんと喧嘩しちゃったの?」

「……」

無言の翔に、呆れた様子の修吾の声が被さってきた。


「俺もずっと聞いてるんだけど言わないんだよ。悠太に謝れって言っても首振って黙ったままだし。仕方ないから帰って来た」

「……悠太くんは大丈夫だったの?」


「かかって行ったのは翔のほうだけど、すぐに悠太のほうが大きいから倒されて引っ掛かれてさ。悠太にも聞いたけど教えてくれないんだよ。『翔が悪い』って、それだけ」


あぁ疲れた……と修吾は呟きながら、黙ったままの翔を置いてリビングを出て行ってしまった。


バタン。


リビングの扉が閉まる。それを見ていた翔の目から涙が溢れ落ちた。


「ママ……」



ポロポロと涙を流して泣いている翔の頭を引き寄せて、ギュッと抱き締めた。


「ご飯、食べてきたの?」


「……あやまるまで……ごはんダメだって」


「みんなは食べてたの?パパも?……悠太くんも?」


「……うん」


呆れた。理由を言わないからって、翔だけにご飯を食べさせないなんて。


「よし、翔。ママもご飯まだ食べてないんだ。まず……その服着替えよっか。それから一緒に何か食べに行こう」


修吾にも聞こえるように明るく大きな声でそう言うと、翔の手を繋いで家を出た。

< 255 / 620 >

この作品をシェア

pagetop