ベビーフェイスと甘い嘘
「ねぇ、翔。どうしたの?何で悠太くんと喧嘩しちゃったの?」
「……」
無言の翔に、呆れた様子の修吾の声が被さってきた。
「俺もずっと聞いてるんだけど言わないんだよ。悠太に謝れって言っても首振って黙ったままだし。仕方ないから帰って来た」
「……悠太くんは大丈夫だったの?」
「かかって行ったのは翔のほうだけど、すぐに悠太のほうが大きいから倒されて引っ掛かれてさ。悠太にも聞いたけど教えてくれないんだよ。『翔が悪い』って、それだけ」
あぁ疲れた……と修吾は呟きながら、黙ったままの翔を置いてリビングを出て行ってしまった。
バタン。
リビングの扉が閉まる。それを見ていた翔の目から涙が溢れ落ちた。
「ママ……」
ポロポロと涙を流して泣いている翔の頭を引き寄せて、ギュッと抱き締めた。
「ご飯、食べてきたの?」
「……あやまるまで……ごはんダメだって」
「みんなは食べてたの?パパも?……悠太くんも?」
「……うん」
呆れた。理由を言わないからって、翔だけにご飯を食べさせないなんて。
「よし、翔。ママもご飯まだ食べてないんだ。まず……その服着替えよっか。それから一緒に何か食べに行こう」
修吾にも聞こえるように明るく大きな声でそう言うと、翔の手を繋いで家を出た。