ベビーフェイスと甘い嘘

私はお腹が空くと無言になる……らしい。

千鶴ちゃんには「茜ちゃんって、お昼が近付くとスリープモードになっちゃうね」なんて、いつもからかわれていた。


私の省エネな部分は翔に遺伝したらしい。そんな二人が無言で待っていると、目の前の窓を見慣れた人物が横切った。


「あっ」


思わず声をあげてしまった。気がつかれたらそれはそれで困るというのに。


まだ私は、彼と気まずい雰囲気のままだ。


まさかここに来ないよね……そう思った予想は外れて、彼はふらりとファミレスの中に入って来てしまった。


そしてそんな事情を何も知らない翔が、彼の姿を見つけた途端に嬉しそうに手を振りながら大声で名前を呼んだ。



「あっ、ちあきちゃんだ!ちあきちゃーん!!」



あぁ……やっぱりね。そうなるよね。


ぎこちない笑顔で手を振り返した彼と……たぶん私も同じような顔をしているんだろう。


確かに九嶋くんにはちゃんと関わろうと決心したけど、こんなすぐに会うなんて思っていなかった。


後ろから様子をうかがっている店員さんは『知り合いでしたら……』なんて空気を醸し出しているし。


まぁ、これだけ混んでたら相席して欲しいよね。
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