ベビーフェイスと甘い嘘

***

「茜さん、お待たせしました……わっ、顔色悪っ!……もー、こんな状態でここまで来る前に、連絡ぐらいしてください!ほら、帰って、帰って!!」


店長からのヘルプ要請を受けて、駆けつけた唯ちゃんにも何故かこっぴどく叱られて、私は早退することになった。


一秒も働いていないのに「お疲れ様でした」と言って帰らなきゃいけないなんて、情けない。


「ほら、ねーさん行くよ。送るから」


仕事に入った店長と入れ替わってスタッフルームへと戻って来た九嶋くんは、私から荷物を奪うと、駐車場に向かって歩き出した。


「送らなくていいよ。車だから」


「知ってる。俺が運転するから」


「一人で大丈夫だって」


「いいから。……これは、一応預かっておくからね。人質」


そう言って九嶋くんは私に手のひらを広げて何かを見せる。

そこにはいつの間にか私の車のキーが握られていた。


「……なっ」

……いつの間に?!何で?!


慌てる私に構う事なく九嶋くんは私を助手席に押し込めて、おまけにシートベルトまで着けられた。



「立ってるのもツラいくせに。……ちょっとは甘えなよ。痛々しくて見てらんない」
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