ベビーフェイスと甘い嘘

「正直言って……朝から凄く身体がしんどかったの。助かりました」


「うん。素直でよろしい」


ニッコリと笑って、九嶋くんが頭を撫でる。


……子どもじゃないんだから。


そう思ったけど、撫でられる感触が心地よくてそのまま身を任せてしまっていた。


「うわ、頭のてっぺんまで熱いね。熱何度だったの?」


「……8度6分」


「はぁー、よく店まで辿り着いたね。店長が言ってたけど、ほんとに病院に行かなくていいの?」


「……うん」


『店長』と聞いて思わず顔が熱を持つ。


『柏谷さん。これは立派なDVだと思いますよ。このまま病院に行って、証拠を揃えて訴えることだってできる。だけど、身体の状態だけで言うなら腫れもないし、内臓も大丈夫そうだし、おそらく症状は打撲だけでしょう』


『訴えずに家庭内のことで済ませたいのなら、今熱を押してまで無理に病院に行く必要はないと思います。だからどうするかはあなた次第です。……俺は、証拠は残しておくべきだとは思いますけどね』


九嶋くんのシフトが終わるまでの間……防犯カメラに映らない死角の資材庫で……腕だけじゃなくて何故か身体も見られてしまっていた。


弱っていたとは言え、言葉巧みに……シャツの裾を捲り上げられて………厭らしい感じじゃなくて……まるで診察されたみたいだったけど……


冷静になって考えたら……店で何て事をしてたんだろう。


どこかに頭から埋もれてしまいたいくらいに恥ずかしい。
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