ベビーフェイスと甘い嘘

「怖かったよね……」


たぶん、店長も……九嶋くんも、昨日私に何があったのか、分かってしまったんだろう。


ーー怖かった。


でも、それ以上に抵抗できなかったのが悔しかった。


修吾の言いなりにはならないと、宣言したばかりだったのに。


その言葉すら身体ごと屈服させられた。


『別れて』とすら言わせてもらえなかった。



「……起きてるとさ、ろくなこと考えないよ。だから、少しだけ眠って」


頬に触れていた手は目蓋に移動して、そっと目を覆った。


まるで、泣いていいよと言われているみたいだった。


目を閉じた暗闇の中で、色んな感情が沸き起こってきたけど、不思議と涙は出なかった。


泣けない私に気がついたのか、九嶋くんは「しょうがないな……」と少しだけため息のような吐息を吐いた。


「眠れない人には子守唄がいちばんだよね」


そう言うと今度は深く息を吸い込んで、ゆっくりと歌い始めた。


音楽に疎い私は、聞き覚えはあったけど、その英語の歌がどんな曲なのかは分からなくて……


でも、耳に届くその歌声は心地よく、柔らかい毛布にふわりと包まれていくように、私の心に優しく沁み渡っていった。


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