ベビーフェイスと甘い嘘
俺を利用しろ
「……かねさん、茜さん」
夢の中で私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
九嶋くん?
あぁ……確か湿布を買ってきてくれるって言ってた……
九嶋くんが私の名前呼ぶなんて珍しいな。
重い目蓋をゆっくりと開ける。
目の前にいたのは直喜だった。
……どうして?ここ、九嶋くんの部屋なのに。
そっか。まだ夢を見てるんだ。
わたし、熱でよっぽど弱ってるのかな?直喜のことを夢にまで見ちゃうなんて……
でも……会いたかった。
どうせ夢なら。ほんの少しだけでいいから触れていたい。
甘えたい。
そばにいて欲しい。
「なお……き……」
喉の奥が熱い。声が掠れてうまく言葉が出て来ない。夢の中まで熱があるなんて。
もどかしい思いで手を伸ばすと、右手に冷たい感触が広がった。
直喜が両手で包み込むように手を握ってくれているのが見えた。
「ありがと……」
やっとの思いで口に出した言葉を聞いて、直喜は切なそうに顔を歪めた。