ベビーフェイスと甘い嘘
握られた手にギュッと力が入る。
漆黒の瞳が揺れていた。
違う。揺れているのは私のほうだ。
ぐらぐらと視界が揺れて……段々意識が飲み込まれていく。
待って……まだ夢から覚めたくない。
…………お願い。そばにいて。行かないで。
はぁ、と息を吐いて無理矢理目を開けると、目の縁から一粒の涙がポロリとこぼれ落ちた。
「大丈夫……ここにいるよ」
そう言って、直喜はそっと涙をすくうようなキスをした。
熱のせいか目尻に落とされたその唇まで、冷たくて気持ちがいい。
『もっとして』
そう思った瞬間に唇が重なった。
……やっぱりこれは、都合のいい夢だ。
だって、直喜はこんな風に私を求めてくれることは無いから。
……あぁもうダメだ。目を開けていられない。目蓋が重い。
「茜さん、もう……」
呟くように直喜が口にした、その言葉の先は聞こえないまま、私の意識は闇の中に飲み込まれていった。