ベビーフェイスと甘い嘘

「絶対に修吾さんとは……二人だけで会わないで……」


「うん、分かった。……後は自分でやるね」


涙ぐむ芽依からタオルを受け取って胸元を拭いた。

タオルは少し冷えてしまったけど、その感触が心地よかった。


……けど、汗をかいた後の不快感は消えたのに、心の中の不快な気持ちまでは拭えなかった。


胸元に付けられた、屈服のしるし。


ゴシゴシ、と音がしそうなくらい乱暴に擦ると、見えないように湿布で蓋をした。



堪らなく気持ちが悪かった。



一度は心を許した人だから、余計に。



「茜ちゃん。もう一人で悩まないで。私達を頼って。……お願い」


芽依はそれだけ言うと、ぽろぽろと涙を溢して泣き出した。


「……芽依、ごめんね。いつも迷惑ばっかりかけて。……ありがとう」


そんな芽依を見ていると、いつもなかなか口に出せなかった言葉が、するりと口から出て来た。


思った事を素直に口にするということは、自分が思っているよりも、簡単な事だったのかもしれない。
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