ベビーフェイスと甘い嘘
「あ、何だ。そういう事か。彼女はいないよ。いたらねーさんのこと連れて来ないでしょ。……まぁ正確に言うとここを借りる時まではいたんだけど、別れた」
九嶋くんはちょっとだけ苦笑いをしながらも、はぐらかしたり誤魔化す事なく答えてくれた。
「引っ越せば良かったのに。いつまでも引きずっちゃうんじゃないの?彼女と寝てたベッドに毎日寝るのって辛くない?」
……そのベッドに私さっきまで寝せてもらってましたけど。
熱で辛かったから横になれるのが嬉しくて、そんな事考えもしなかった。
まだ腰かけているベッドの感触が急に生々しいものに感じて落ち着かなくなってしまった。
「芽依さんってさ……」
「何?智晶ちゃん」
「知らず知らずのうちに、敵を作る人だよね。……ねーさん、微妙な顔してるけど、そこに彼女は寝たことないから安心して座ってていいよ」
プライベートまで踏み込む質問をした芽依に、気分を悪くしたのではないのかとヒヤヒヤしたけど、意外にも九嶋くんの表情は楽しげだった。
「うん。私、思った事はすぐ言っちゃうし、気になることもそのままにしておけない性格なんだよね。でもいいの。どれだけ敵がいても、私には茜ちゃんがいるから。……智晶ちゃん、怒っちゃった?」
芽依の素直な所は大好きなんだけど、言い過ぎてから『しまった!』と気がつく所だけは直したほうがいいんじゃないかと思う。