ベビーフェイスと甘い嘘
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「茜さん、お待たせしました!」
初花ちゃんの声ではっと我に返る。
……ごめん。全然待ってなかったわ。
「私、揚げ物に取りかかりますね」
そう言って初花ちゃんはすぐにレジを抜けて隣の部屋にあるフライヤーのほうへと向かって行った。
手間のかかる揚げ物係りをやってくれるあたり、待たせてしまったと気を遣ってくれているのだろう。
店長によっぽど絞られたのか、フライヤーに向かうその表情は疲れきっていた。
私、ただのパートでよかった……。
気楽な立場でよかった、と安堵する。
それなりに働いていればお金はもらえるし、苦労もしない。もちろん責任を負うことだってない。
……毎日が死ぬほど退屈なのを我慢すればいいだけ。
ただ、それだけなのだから。
「……あのー、すみません」
声を掛けられてはっとする。入り口近く、コーヒーの機械の横にお客さんが立っていた。
……またぼんやりしちゃった。
「あ、はい。いらっしゃいませ」
そう言いながら急いでレジを離れて近くへと駆け寄る。
「お待たせ……」
『お待たせしました』と言いかけて、息を飲んだ。